2010.12.22
森達也さんの『A3』(集英社インターナショナル)を読んだ。
オウム真理教と麻原彰晃。多くの人が目をそむけ、当然のようにして「死刑」というなかで、森さんは立ち止まり、じっと考える。
それが、本当に、殺された人、殺してしまった人に対して、誠実なことなのだろうか?
「死」に対して、真摯であることなのか? と。
読んでいて、クララの話を思い出した。
ムッソリーニといっしょに愛人のクララが銃殺され、彼女は逆さに吊るされた。
スカートがめくれて群衆が喜ぶなか、歩みでて、自分のベルトでスカートをおさえて、めくれないようにしてあげた人がいた。
本当の勇気とは、こういうことじゃないか、と思う。
そして森さんは、たったひとりでも、スカートをおさえてあげることで、ぼくらの大切な何かを守ってくれている。
このエピソードを、伊坂さんが『魔王』(講談社)のなかでとりあげていたことも思い出した。
「『死』ということについて、僕はよく分からないけれども、でも考えることをやめたくないんです」
と話していたことも。
きっと伊坂さんは、森さんのこの本が好きだろうな、と思っていて、今日、伊坂さんのエッセイ集『3652』(新潮社)を買って夜の電車で読んでいたら、森さんの『A2』(現代書館)のことが書かれていた。
「あとがきのおしまいのほうに、こういう言葉が書かれていて、とても幸せな気持ちになる。
『世界はもっと豊かだし人はもっとやさしい』」
それを読んで、じんとした。
こんな人たちと同じ時代に生きていることを、幸せに思った。